「いくつずれるか」で考える(小1の足し算)~立ち読み計算ドリル⑯~
こんにちは
キッズの教養を考える研究室「ききょうけん」のベル子です。
紙や鉛筆をなるべく使わずに答えを判断する工夫について考える「立ち読み計算ドリル」、
今回は「繰り上がりの足し算」がテーマです。
このシリーズでは、ここ数回にわたって消費税(10%)に関わる計算について扱ってきました。
「百分率」は、小学5年生で習う内容です。そしてその前の記事は中学3年生で習う「平方根」でした。どちらも予備知識が必要だったり、理屈がわかってもその後実際に暗算するには少し練習が必要だったりする、少々ややこしい内容だったかと思います。
そこで今回は、シンプルな足し算の問題にしました。
今回出題するのは小学1年生の内容になりますが、実際には小学2年生以降に重要になる考え方です。
以前に扱った「どんぶり勘定」の考え方の、元の部分でもあります。
※「どんぶり勘定」の記事はこちら↓
大人から見れば、理屈など何もいらない簡単な問題だと思いますが、良かったらお付き合いください。
◎まずは問題です
<問題>
太郎さんのお父さんは、今40歳です。9年たったら49歳になります。
では、今6歳の太郎さんは、その時何歳になりますか。
また、今9歳のお姉さんは、何歳になるでしょうか。
<答え>
太郎さんは15歳、お姉さんは18歳です。
◎「いくつずれるか」で考える
このくらいの計算では、大人に限らず子どもでも、「計算のやり方など意識せずに一瞬で答えが出せる」という人がたくさんいるでしょう。
かけざん九九と同様に、既に「答えを暗記している」状態の人もいるかもしれません。
でも改めて考えてみると、どのような計算手順をイメージすれば良いのでしょうか。
小学1年生の授業で繰り上がりの足し算を扱う時、主に扱われる方法は、「どちらかの数にいくつかを加えて10をつくる」というものです。
例えば、今回の問題でも登場する「6+9」の計算では
6は、あと4で10
↓
9を4と5にわける
↓
6と4を足して10をつくる
↓
その10に、残った5を足す
という考え方になります。
式で書くならば
6+9
=6+4+5
=10+5
=15
という計算です。
さらに、「9の方が10を作りやすい」ことに着目し、6の方を分解する方法もありますね。
6+9
=5+1+9
=5+10
=15
と考えられます。
また、「5でひとまとまり」「5と5で10」ということを重視し、5と端数に分けて計算する方法が紹介される時もあります。
6は5と1、9は5と4
↓
それぞれの5同士合わせると10になる。それぞれの端数1と4を合わせると5になる。
↓
10と5で15
というわけです。
ただ、この方法は「繰り上がりの足し算」の中でも使える問題が限られるため、利用できるかどうかの見極めができないと使いこなせません。ですから、最初に紹介した「どちらかの数にいくつかを加えて10をつくる」という方が一般的です。
「繰り上がりの足し算」の方法として習うのはこうした考え方ですが、もう一つ身につけておくと後々役に立つ考え方があります。
それが今回の「いくつずれるか」で考える方法です。
繰り上がりの足し算というのは、そうでないものに比べると、やはり少々面倒ですよね。「9+2」「8+3」というように2や3を足すくらいなら「9、10、11」と順番に数えていくだけでも答えが出そうですが、「+8」「+9」と数が大きくなってくると、なかなかそういうわけにもいかなくなってきます。
それならばまだ、きりの良い「10を足す」方が簡単そうです。
考え方さえ覚えれば、6+10=16、9+10=19というように、すぐに答えが出せるでしょう。
そこで「9を足す」のではなく「10を足すより1小さい」と考えることで、計算時間を短縮できるのです。
今回の問題の式なら
(太郎さん)
6+9
=6+10-1
=16-1
=15
(お姉さん)
9+9
=9+10-1
=19-1
=18
というイメージになります。
「繰り上がりの足し算」の授業ではあまり扱われない方法ですが、学年が上がると何かと役に立つ考え方です。
まず九九を覚える際の助けになりますし、平均点の計算などで「98点、97点、93点」の合計点を出す時に
「100点より2点低い、100点より3点低い、100点より7点低い」
↓
「300点より12点低い」
と考えられればスピーディに計算することができるでしょう。
生活の中で活用できることも多いので、子どもが「いくつずれるか」で考えられそうな場面を見つけた時に、声をかけてみることをお勧めします。
◎学習タイミングについて
計算方法の話は以上なのですが、今回の問題文をもう一度振り返ってみます。
太郎さんのお父さんは、今40歳です。9年たったら49歳になります。
では、今6歳の太郎さんは、その時何歳になりますか。
また、今9歳のお姉さんは、何歳になるでしょうか。
大人が解くにあたっては、最初の1行に書かれた「40歳のお父さんは9年後に49歳」という情報は必要ないですよね。単純に「6歳の太郎君は9年後に何歳になりますか。」といった聞き方で十分です。
それでもわざわざこの一文を入れたのには理由があります。
小学1年生の文章題で年齢に関する問題が出題される場合、たいていは現在のみに着目したものです。
「太郎さんは6歳です。お兄さんは太郎さんよりも2歳年上です。お兄さんは何歳ですか。」
「花子さんは7歳です。お姉さんは13歳です。違いは何歳ですか。」
といった質問ですね。
今回「9を足して繰り上がる計算」について考えるために「9年後は何歳?」としましたが、小学1年生にとっては少しイメージしづらい、難易度の高い問題だといえるでしょう。
まだ6~7年しか生きていない小学1年生にとって「9年後」というのは遠い未来ですし、何より「〇年後」という表現自体にまだなじみがないはずです。
「9時の30分後は何時何分ですか?」といった問題は小学3年生の内容になりますし、「今年は7歳になるよ」「来年は8歳だよ」というように、「次の年」のことは考えても「〇年先の年齢」まで考える機会はほとんどありません。
そのため「〇年後の年齢を考えるためには、今の年齢に〇を足せば良い」と考えるためのヒントを少し出しているわけです。
そんなことをするくらいなら、年齢を題材にせずに「9個増えたら何個になりますか」といった問題文にすれば済む話ですね。他の題材でいくらでも「9を足して繰り上がる計算」の文章題が作れます。
ただ、今回テーマにした「いくつずれるか」で考える方法は非常に便利ではあるものの、「繰り上がりの足し算」として学校で習う基本の考え方からは少し外れるものです。基本をしっかりおさえられていないうちに別の方法まで教えてしまうと、かえって混乱する可能性もあります。「計算できるようになる」までは扱わないようにして、「計算スピードを上げる」段階で意識するように働きかけた方が良いでしょう。
今回記事を書くタイミングが、小学1年生の子どもが繰り上がりの足し算を学習するような時期とちょうど重なってしまいましたが、今まさに習っている最中の子どもにはお勧めしません。
そのため、文章題の難易度をあえて高めにしました。
ちなみに立式のヒントとなっているお父さんの年齢も、式を書くなら「40+9=49」ということになりますが、これも1年生で習う内容ではあるものの、今回の「9+6」等の計算よりも後に学習する内容です。
こうした内容も含めて1年生の学習内容全体をある程度使いこなせるようになってから、プラスアルファとして「いくつずれるか」の考え方も扱うことをお勧めします。
◎まとめると
・「〇+9」という式を見た時に、「9は10より1小さい」ことから「〇+10-1」と置き換えて考える発想ができるようになると、その後の学習でとても役に立ちます。
・ただ、「繰り上がりの足し算」として習う一般的な考え方が身につかないうちにこの話をすると、かえって混乱するかもしれません。
・1年生での学習内容をある程度使いこなせるようになったら、機会をみつけて「こういう考え方もある」と話してみることをお勧めします。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。