「ただ、そばにいる」物語(前編)~3行で振り返る読書(8)~
※ネタバレ注意
今回は、重松清さんの小説「きよしこ」(新潮社文庫)の内容に関する記述が含まれます。
こんにちは、
キッズの教養を考える研究室「ききょうけん」のベル子です。
今回の「3行で振り返る読書」は重松清さんの「きよしこ」を振り返ります。
次回の後編と2回に分けて振り返る予定です。
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「ビタミンF」で直木賞を受賞した作家、重松清さんの「自伝的小説」だと言われています。著者曰く「個人的なお話」だそうです。一般小説として扱われていますが、ある意味では「子ども向け」ともいえる作品になっています。その点については後でもう少し詳しく書くとして、まずは3行で振り返ってみましょう。
(シリーズ全体を通して、あくまでも私の個人的な感想や解釈に基づくものなので、筆者の意図から外れていることもあるかもしれません。その点はご理解くださいますようお願いします。)
◎3行で振り返る
本の内容は→転勤族の家庭に生まれた吃音を持つ少年と、その周囲の人間ドラマ
物語のテーマは→励ましでも支えでも、慰めでも癒しでもなく、「ただ、そばにいる」
感じたこと→望んだことも望んでいないことも、全ては0にも100にもならない
「吃音」について、この本の中では「言葉がつっかえる」という風に説明されています。
一般的には、「発語の非流暢性」と言われることもあります。「上手くしゃべれない」わけです。どう上手くいかないかによって、いくつかに分類されていますが、どの種類の吃音にしても、現代の医学では原因や根本的な解決策は明らかになっていません。著者の重松さん自身も吃音を持っているそうで、このお話はその体験をもとにして書かれたものなのでしょう。
◎全体の骨組みとあらすじ
この小説は、7つの短編を連ねたような構成になっています。
7つのエピソード全てが「白石清(しらいしきよし)」という少年を主人公にした物語です。話が進むごとに少年の年齢も上がっていき、それぞれ別のエピソードについて描かれています。
この7つにプロローグとエピローグにあたる文章を加えて、1つの作品になっているわけです。
それぞれの内容についてもう少し詳しく紹介します。
(プロローグ)
「僕」が自分自身とよく似た少年「白石清」を主人公にした7つの物語を書くことにした経緯が語られる。
「きよしこ」
小学1年生の時のお話。
「嫌なことがたくさんあって、これまでの思い出の中で2番目に悲しかった」クリスマスイプに、清のもとに「きよしこ」が現れる。
「乗り換え案内」
小学3年生の時のお話。
夏休みに、清は「おしゃべりサマーセミナー」に参加して、吃音を持つ別の学校の子どもと出会う。清はその体験を「夏休みの思い出」として、多少の改変を加えて作文に書く。
「どんぐりのココロ」
小学5年生の時の話
清は転入したばかりの学校の人間関係になじめず、放課後は神社で、アルコール中毒の「おっちゃん」と二人で過ごすようになった。その後、野球を通じてクラスになじむことができ、「おっちゃん」とは疎遠になる。
「北風ぴゅう太」
小学6年生の時の話
作文の得意な清は、担任の石橋先生にお別れ会の劇の脚本を頼まれ、必ず全員にセリフをつけるように言われる。重い病気の子どもがいるために休みがちな先生を気遣いながら、クラス全員で劇をやりきる。
「ゲルマ」
中学2年生の時の話。
清は、良くも悪くも遠慮のないクラスメートの「ゲルマ」と、その幼馴染「ギンショウ」との事件に巻き込まれ、その年の読書感想文の題材に「泣いた赤鬼」を選ぶ。
「交差点」
中学3年生の時の話。
清も含めて1年生の時からずっとみんなで頑張ってきた野球部に、野球の上手い転入生が入部してきた。レギュラーの座を巡って微妙な空気になる部内の様子に、清は複雑な気分になりながら、自分なりの解決を考える。
「東京」
高校3年生の時の話。
受験勉強中の図書館で、吃音を持つ清の言いたいことを全てくみ取ってくれる女子大生と交流しながら、自分の進路について大きな決断をする。
(エピローグ)
「僕」による視点で、少年のその後が簡単に語られる。 そして「僕」は「君」へ「それが本当に伝えたいことだったら……伝わるよきっと」という、「きよしこ」の言葉を贈る。
このようなストーリーになっています。
◎プロローグについて
全体のタイトル「きよしこ」が最初のお話のタイトルになっているだけあって、最初のお話が全体のストーリーに大きく関わっています。「なぜこのお話を書くのか」というプロローグと「きよしこ」を読むと、どんな設定のお話なのかがわかるでしょう。
「きよしこ」については次回後編で振り返るとして、今回はプロローグについてもう少し書いておきます。
作家である「僕」のところにある日一通の手紙が届きます。
それは、吃音を持つ「君」のお母さんからでした。お母さんは「僕」がテレビのドキュメンタリーに出ているのを見て、「僕」が吃音を持っているのに気づいたのだそうです。そして励まされたと。「僕」は息子の今後を憂うお母さんから、小学1年生の「君」あてに手紙を書いてもらえないかとお願いをされます。同じ吃音を持つ「僕」から励ましの手紙をもらえれば「君」の心の支えになるのではないか考えたそうで、お母さんからの手紙には返信用の封筒まで同封されていました。
「僕」はその親子のそれぞれの気持ちに思いを巡らせつつ、励ましの手紙は書きません。そして手紙の代わりに、いくつかの「個人的なお話」を書きたいと考えます。「僕」は、お話というものは、現実に生きるひとの励ましにも支えにも、慰めにも癒しにもならないと考えているそうです。お話にできるのは「ただ、そばにいる」ということだけ。だから、まだ会ったことのない誰かのそばに置いてもらえることを願い、このお話を書くことにしたと書かれています。
◎後編へ続きます
今回は、プロローグを中心に、おおまかなストーリーを中心に書いていきました。
後編では、エピソードを振り返りつつ、自分が感じたことなどを振り返りたいと思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。