ききょうけん(キッズの教養を考える研究室)

「キ」ッズの「教」養を考える「研」究室

ふきげんな家族(前編)~3行で振り返る読書(10)~

  こんにちは、

キッズの教養を考える研究室、略して「ききょうけん」のベル子です。

 

 今回の「3行で振り返る読書」では、伊藤比呂美さんのエッセイ「伊藤ふきげん製作所」を振り返ります。

 

 

 2000年に書籍化、2003年に文庫化されたエッセイ集で、残念ながら現在ではもう書店で購入することは難しいようです。でも図書館や古書店で見かけることはありますので、興味を持った方は是非読んでみてください。

 

 

◎3行で振り返る

 

内容は→「ふきげん」なお年頃の娘2人(と乳幼児)を海外で育てる等身大の日誌

特徴は→日本で「あるある」な思春期事情と海外での子育て事情をすっきり言語化

印象に残った言葉は→「まさか自分が『まさか』と思うなんて、思いませんでした。」

 

 

◎キーワードの「ふきげん」とは

 

 この本では何度も「ふきげん」という言葉が使われます。重要なキーワードだといえるでしょう。

「不機嫌」は一般的な言葉ですが、この本で語られる「ふきげん」はその中でも特別なものです。

 

 作品の冒頭は、次の一文で始まります。

 

「思春期の人々は、ふきげんです」

 

 つまり、思春期独特の「モヤモヤ」とか「鬱々」を「ふきげん」と呼んでいるのでしょう。

「ふきげん」という感覚自体は思春期の子ども以外の人間でも抱くことはありますね。赤ん坊だって、空腹や不快感から「ふきげん」になります。でも、原因が解決されれば「ふきげん」もどこかへ行ってしまうような、わかりやすく単純なものです。

 それに比べて、思春期の「ふきげん」は非常にやっかいです。赤ん坊の頃のように単純でもないし、子ども達は自分自身でそのふきげんを処理できるほど成熟していません。自分自身ではどうにもできず、持て余して外部に垂れ流します。そして家族はそれに付き合うことになるわけです。

 

 筆者の伊藤さんの家庭でも、長女が「ふきげん」を垂れ流すお年頃になりました。伊藤さんはそんな子どもの「ふきげん」に対して、時には客観的に分析し、時には感情的になります。その後次女も「ふきげんなお年頃」に突入し、「ふきげん」にもいろいろタイプがあるのだと知ったり、反対に「ふきげんなお年頃」を過ぎて少しスッキリした長女の姿をみることになったりするのです。

 

 詩人で作家の伊藤比呂美さんが、その家庭の様子を、独自の文学センスでかなりオープンに語ったのが、このエッセイ集だといえるでしょう。

 

 

◎この本との出会い

 

 この本の内容は、もともと「いちこちゃんのおばちゃん」というタイトルで、1990年代後半に新聞で連載されていました。

 

 当時は私自身も多感な時期でしたが、長女のふきげんさは他人事のように思えました。でも私が多感な時期ということは、自分の身の回りの同級生も多感なお年頃だということです。ですから長女の「ふきげん」ぶりと、クラスメートの言動から感じられる「ふきげん」さを重ねて、「友達はこんな気分なのか」と興味深く読んでいたのです。

 ところが連載中に伊藤さんの次女もお年頃になり「ふきげん」ぶりを発揮し始めます。そこで伊藤さんは「長女と次女で『ふきげん』が違う」と語り始めるのですが、「阿鼻叫喚になっても、数時間後にはケロリ」な長女に対し、次女は「どす黒く黙りこくり、根に持つ」そうです。それを読んだ時、次女の「ふきげん」が自分にそっくりだと笑ってしまいました。

 そうか、自分は周囲と比べて「反抗期とか思春期とかない」ような気がしていましたが、単純に表出の仕方が周囲の目立つ子と違うだけで、立派に「ふきげん」だったのかと、理解した瞬間でした。

 ちなみに、その瞬間声を出して笑ってしまい、近くにいた両親に「どうしたの?」と聞かれたので、エッセイのこの部分をそのまま読み上げたところ「ベル子と同じ!」と言われました。

 

 そんな気づきの他に興味深かったのが、アメリカと日本の違いです。当時この一家はカルフォルニアに住んでいたため、ところどころで日米の教育事情の違いが垣間見えます。当時は自分が将来教育関係の仕事をすることになるとは思っていませんでしたが、既に強い関心は持っていたので、いつも興味深く読んでいました。

 

 それから10年以上が経ち、自分が仕事で「ふきげんなお年頃」の子と接する機会も増えてきた頃、時々この連載を思い出すようになりました。

「もう一度読んでみたいな、何か方法はないものか」と調べた結果、書籍化されていることを知り入手した次第です。

 連載時のタイトル「いちこちゃんのおばちゃん」の「いちこ」は長女の仮名で、次女は「にこ」と呼ばれていましたが、書籍化するにあたり呼称が変わっています。その他一部に改変を加えているようですが、もともとの記憶があいまいだったため特に気にならずに読むことができました。

 

 

◎後編に続きます

 

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 今回は「伊藤ふきげん製作所」を振り返る記事の前編でした。

 どちらかというと、主に本の概要を紹介する内容だったかと思います。

 後編では、本の内容についてもう少し詳しく振り返る予定です。

 

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。