ききょうけん(キッズの教養を考える研究室)

「キ」ッズの「教」養を考える「研」究室

誰のための言葉遣いなのか?~キッズの一人称(後編)~

(※この記事は前後編うちの後編です。前編はこちら↓)

 

kikyouken.hatenablog.com

 

こんにちは、ベル子です。

◎後編に入る前に、前編を簡単に振り返ってみましょう


 ・ 自分で自分を何と呼ぶか(私、僕、俺、オイラ、アタシ、拙者、etc…)で
  その人の印象が変わる。
   社会人になる時には、それにふさわしい一人称を使うことが求められる。
 
 ・ 幼い子どもは「○○ちゃん」など自分の名前で呼ぶことが多い。
  小学生、中学生と年齢が上がるについてて「僕」「俺」や「私」が増えるが、
  一昔前に比べて、自分の名前を使う子は増えている印象。

 ・ 子どもの成長の、どの段階で「社会人らしい一人称」を覚えるべきなのか?
   

と、いうわけで、「いつまでに『社会人らしい一人称』を覚えるべきなのか?」が後編のテーマです。早速考えていきましょう。


◎社会人の一人称といえば「私」

「一人称が印象を左右することがある」ので、芸能人や作家等創作活動をする方々は、独自の一人称で自分の世界を演出することがありますね。それは特殊な例で、一番一般的なのは「私」だと思います。場合によっては「わたくし」を使うこともありますが、とりあえず「わたし」を覚えることを考えてみましょう。
 
 それでは、どのタイミングまでに身につけるべきなのでしょうか。これは大きく二つの場面に分けて考えるべきだと思います。特別にあらたまった場面での「わたし」と、日常生活の中での「わたし」です。


◎あらたまった場面で「わたし」を使いこなすようになる時期は

 高校生の男の子が生活の中で「僕」「俺」と言っていてもあまり違和感がありませんが、小論文では「私」と書くように指導されます。中学校の作文の授業でも、男女ともに「私」と書くように指導されることは少なくありません。
 そういったあらたまった文章では「私」を使うということは、知識として早い段階で覚えておくほうが良いと思います。使い慣れていない言葉を日常の中で突然使いだすというのは難しいことですので、中学校に入るくらいの頃からは男女共に、「こういう時は『私』を使うものなんだよ」と教えていけると良いでしょう。子どもも「作文では『私』と書く」と言われて抵抗を示すことは、ほとんどないと思います。
 もし、「私」を使うことのに強めの違和感を感じているようであれば、実際に「私」を使っている人や文章に触れる機会を日常的につくっておくというのも、違和感を弱めるのに以外と効果的な方法です。
 就職した時や、そうでなくてもアルバイトをする時には、会話の中で使わなくてはいけない場面が出てくるので、それまでにある程度慣れておけると良いですね。


◎日常的に「わたし」を使うようになる時期は

 一人称に限らず、大人から見て「好ましく感じる言葉遣い」ってありますよね。逆に子どもの言葉遣いを「変えさせたい、直させたい」と思うことも、時にはあるでしょう。

 前編で「自分のことを『うち』と呼ぶ女の子がいる」ということを書きました。地域によっては昔から使われている方言で、何の違和感もない一人称だと思うのですが、関東では中高生の女の子が「うち」と言っているのを聞いて眉をひそめる方もいます。

 また、割合は高くありませんが、自分の子どもが「俺」と言っていると「なんだかお行儀が悪そうだからやめさせたい」という方もいます。
 それは、中高生のうちにすぐに直させるべきなのでしょうか。

 
 私は、上記のような「特にあらたまった場面」「必要に迫られた場面」でしっかりした言葉遣いができるようであれば、日常生活での言葉については、大人からあまりあれこれ言わない方が良いのかもしれないと考えています。
 親や先生から見ると、「俺」や「うち」という表現は、場合によっては「あまり好ましくない、変えさせたい」と思うことがあるかもしれません。しかし本人が「この言い方が良いんだ」と思っているようなら、変えさせるのは困難です。

 前編で私は「一人称は、時には使っている人の印象を決定づけるものになる」と書きました。

 だからこそ「俺」や「うち」ではない、違う一人称を使わせたい、そんな言葉遣いで周囲の人がどんな印象を持つか想像させなければ……と、考えてしまうと子どもとすれ違うばかりです。

 

「一人称が変わればイメージが変わる」それは子どもたちも良くわかっています。「この言い方が良いんだ」という子どもは、あえてその一人称を使っているのです。「こういう人間だと思われたい」という自分が演出したい自己像があり、それに合致する一人称がそれだと考えているのでしょう。

 大人から見れば良いと思えない演出かもしれませんが、中・高生には「大人からどう見えるか」よりも「同年代の集団からどう見えるか」の方が、はるかに重大に感じる時期があります。大人からどう思われようと、友達グループから受け入れられそうな自己像を演出したいのです。
 その価値観を「くだらない」と言ってしまう大人の意見を受け入れることは難しいでしょう。自分の交友関係を否定されるというのは、子どもとしては悲しいことです。

 

 大人の価値観では理解できなくても、子どもたちの価値観はそうなんだと、少し距離をおいて見守った方が良いと思います。いずれ進学や就職などで交友関係が変わると演出したい自己像も変わり、一人称も変わっていくので、焦らずに待つのも一つの方法です。
 そのうえで、親戚の大人に会う時や三者面談で学校の先生と話す時等に「ここでは『私』と言おう」と声をかけてみましょう。

 大人と接するときは大人のルールに合わせてみようということですね。「うち」は友達からは「かわいい」と言われるかもしれないけれど、友達が志望校の合格通知を出してくれるわけではないし、アルバイトの給料を払ってくれるわけではないので。


◎まとめると

 日常的に「わたし」を使うようになるタイミングは、年齢よりも子どもが属している集団によるということになるでしょう。

 学校など子ども同士の交流が中心であれば、子どもの世界を尊重することも大切ですが、就職やアルバイトなどで大人との関わりが中心の生活になったら、「わたし」を意識的に使っていく必要に迫られます。

 その時に使いこなしていけるよう、少しあらたまった場面などで使うように声をかけて、「必要に迫られれば使える」ようにだけはしておくと良いと思います。

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