「関わりことば」を通して考える社会性~ピカピカの一年生の教養㊷~
こんにちは、
キッズの教養を考える研究室、略して「ききょうけん」です。
今回の「ピカピカの一年生の教養」は、前回の続きと言いますか、補足の記事です。
前回は「子どもの社会性」をテーマにして、湯汲英史さんの著書
子どもと変える 子どもが変わる 関わりことば -場面指導のポイントー
(シリーズ発達障害がある子の「生きる力」をはぐくむ2)
を紹介させていただきました。
※前回の記事はこちら↓
でも、前回の紹介の仕方だけでは、具体的な内容がイメージしづらいかもしれないので、今回は補足情報として、もう少し具体的な内容や関連書籍を紹介していきたいと思います。
とはいえ、紹介の文だけでもそれなりの文字数になってしまっていますから、興味のある方はこの記事を読まずに直接実物を読んでいただいた方が早いでしょう。
興味があるけれど、読もうかどうか迷っていらっしゃるという方は、是非今回もお付き合いください。
◎前回の概要
「関わりことば」というのは、子どもが生活していく上で必要な社会概念について、端的に表した言葉です。筆者はこの本の中で、子どもにとってわかりやすく使いやすい言葉20個を集めています。大人が「関わりことば」を子どもに教えることで、その言葉が表す概念自体を子どもに身につけさせていこうというのが、この本の特徴です。
どんな社会概念を身につける必要があるのかということも本の中に書かれているので、「何か習得しそびれているかも」と感じた時のチェック項目としても参考になると思い、前回の記事ではこの本を紹介させていただきました。
今回の記事では本の具体的な内容の紹介として、20の「関わりことば」の中から私自身が印象に残っているもの2つと、関連の書籍を紹介したいと思います。
①「はんぶんこ」
「はんぶんこ」は他者の存在を意識し、慈悲の心の出発点となる言葉として紹介されています。
「集団生活の中で、お友達と仲良くする・優しくする・トラブルを起こさない」ということを考える際に、一般的によく聞かれる言葉は「貸して」「いいよ」のセットではないでしょうか。この「貸して」という言葉も20個の関わりことばの中に入っているのですが、この本の中で「貸して」「いいよ/だめ」」が紹介されるのは最後の方です。他の関わりことばに比べて難しいとされているのですね。
貸し借りというのは、自分と相手の立場「貸す側」と「借りる側」の立場で、起こることが全く異なります。さらに「相手からものを受け取るけれども自分のものになるわけではない」という目には見えない所有権を理解しなくてはなりません。子どもによっては、こうした概念の理解が非常に難しいため、いくつかのスモールステップを設けていく必要があります。その最初のステップが「はんぶんこ」に集約されているというわけです。
「はんぶんこ」から「貸して」の間のステップとして「あげる/もらう」という言葉も紹介されています。これは「貸して」に比べると「もらったものは自分のもの」というわかりやすさがありますが、「あげる側」と「もらう側」で立場が異なるという難しさは貸し借りと変わりません。
それに対して、「はんぶんこ」は相手も自分もお互いに「半分あげる/半分もらう」という立場を経験することになります。他者を意識できないうちは「はんぶんこ」を「半分無くなる→いやだ」としか思えないかもしれません。でも「はんぶんこ」を言ったり言われたり、「はんぶんこ」をほめられたりという経験を繰り返すことで、「はんぶんもらえて良かった」「相手も半分もらえたら嬉しいんだ」「はんぶんあげてよかった」と考えられるようになるのでしょう。
「貸して」「いいよ」の前にまず「はんぶんこ」を教えるという本書の考え方は、個人的に非常に印象に残っています。
◎「できた」
この本で一番最初に紹介される関わりことばが、この「できた」です。
教育の場で子どもに指示を出す時に、「できたらほめる」ということとともに「何をもって『終わり』とするかを明示する」ということが大切だとも言われています。「できた」はそれを端的に表した関わりことばだと言えるでしょう。
どこからどこまでがひとつの作業かという考え方については、大人と子どもの間で大きな隔たりがあることも少なくありません。
本のなかでは例えとして「着替え」について触れられていますが、この記事では「ご飯を食べる」という行動について、大人から子どもに「遊びはやめて、ご飯を食べよう」という声掛けをした場面を例に考えてみたいと思います。
声をかけた大人にしてみると、この「ご飯を食べる」というのは「ご飯を食べ終える」ことを指しているのでしょう。完食するかどうかはともかく「自分が食べる分」を全て食べ終えるまでを想定しているはずです。でも、最初の一口を食べることも「ご飯を食べる」という動作であることには変わりありません。仮に、大人に「ご飯を食べよう」と言われたから遊びを中断して、とりあえず一口食べてまた遊びに行ってしまった子どもがいたとしましょう。大人の感覚では「遊びはやめてご飯だって言ったでしょ!」と言いたくなるかもしれませんが、子どもにしてみれば「もう言われた通りにやったのに、まだ言っている」と思うかもしれません。
「テーブルの上から食べ物がなくなる」とか「最後に『ごちそうさま』」というとか、そういった終着点を定めて、「ここまでを『食事』」というんだよという共通理解があれば、こうしたちょっとした食い違いは防げそうですよね。日常生活の中で「子どもがなかなか行動に移らない」という時、その「行動」の理解が不足している場合があるのです。
「ここからここまでの動作を『着替え』と呼ぶ」「ここからここまでの動作を『片付け』と呼ぶ」ということをはっきり理解できれば、今何をするべきなのか・それがどのくらい続くのかを把握して建設的に取り組みやすくなると考えられます。
子どもは生活の中でいろいろなことを学んでいきますが、「始まり」と「終わり」を意識し、終わったら結果を振り返ったり他者と共有したりできるという技能が、学びの一番基礎となる土台なのでしょう。まずそれを覚えるための「できた」です。
◎関連書籍2冊の紹介
「気持ちのコントロールが苦手な子への切りかえことば26」
著者:湯汲英史 漫画イラスト:齊藤恵 すずき出版
「気持ちの切り替え」って、大人でも難しい時がありますね。この本はその「気持ちのコントロール」があまりうまくいかない子どもに関して「どんなスキルや理解があればコントロールできるようになるのか」を考えながら、それを身につけるために「関わりことば」を紹介しています。随所に漫画での説明が挟みながら、26の項目に分けて説明がされていますので、気軽に読みやすい本です。
ただ「切りかえ」というと「これを言ったらサッと状況が変わる」ようにもイメージできますが、実際に子どもが「切りかえことば」で気持ちをコントロールできるようになるまでには相応の時間と根気が必要でしょう。あくまでも「切りかえできなくて困ったときに使う」のではなく「切りかえできるように、日常的に声をかけ練習しておく」言葉が紹介されている本なので、即効性を期待して読むことはお勧めできません。でも、子どもと関わり方について、自分の視点や考え方を振り返るのに参考になると思います。
「決定権を誤解する子理由が言えない子―発達障害がある子に誤解をもたせない育て方のポイント (学ぶ・理解する・教える“まりおシリーズ”) 」
著者:湯汲英史 小倉尚子 かもがわ出版
こちらも表題に「発達障害がある子」と書かれていますが、頻度の違いはあるにせよ、どんな子どもでも「決定権を誤解する」ということは起こり得ると、私は感じています。
おそらくは身近な子どもの障害の有無に関わらず、この「決定権を誤解する子」という表現を見てピンとくる人とこない人がいらっしゃるのではないでしょうか。
もしもピンときた方がいらっしゃいましたら、この本を読んでみると何かヒントを得られるかもしれませんので、是非一度読んでみてください。
ピンとこなかった方は、現時点でこの本に書かれている情報を特に必要としていないのかもしれません。
私の個人的な印象としては、成長段階として、これまで紹介した2冊よりも少し後の段階を想定した本だと感じました。この本も興味深い本なのですが「決定権を誤解する」ということについては、「関わりことば」の本でも説明されています。
そのため、「なんとなく子どもの社会性について気になった」という人であれば、まずは最初に「関わりことば」の方を読んでみるのがお勧めです。
今回は、前回お勧めした本
子どもと変える 子どもが変わる 関わりことば -場面指導のポイントー
(シリーズ発達障害がある子の「生きる力」をはぐくむ2)
について、補足として具体的な「関わりことば」や関連書籍を紹介させていただきました。
次回の「ピカピカの一年生の教養」は現在、来週月曜日20時に更新予定です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。