算数で指を使う話(後編)~ピカピカの一年生の教養㊺~
こんにちは、
キッズの教養を考える研究室、略して「ききょうけん」です。
今回の「ピカピカの一年生の教養」は、「算数で指を使う話」の後編です。
これまでの2回のうちの前編では、10までの数について「①指で表した数がわかる」「②指で表された数を読み取ったり、指で数を表したりできる」という、いわば「読み書き」に近い内容について考えていきました。
※前編はこちら↓
そして中編では「折り曲げた指の本数を把握できている」という段階について書きました。「片手で数を表した時に、曲げている指の数」「両手で数を表した時に、曲げている指の数」を意識して、5の分解や10の分解を身につけるという話です。
※中編の記事はこちら↓
前回の記事で③の段階まで紹介しましたから、今回は④からになりますね。
今回の後編では、増えたり減ったりする数がテーマです。
④0~10まで数えたり、カウントダウンしたりできる
両手を「グー」の形にした状態から、「1,2,3,4,5,6,7,8,9,10」と指を1本ずつ伸ばしながら数えるのが基本の動作です。
そして反対に、両手を「パー」の形にした状態から「10,9,8,7,6,5,4,3,2,1,0」と指を1本ずつ曲げながらカウンダウンしていく動作も身につけておく必要があります。
どの指から伸ばしていくかは人や状況によって異なりますが、ここでは特に指定はしません。その子がやりやすい方法で良いでしょう。
ただ、途中で数えるのをやめたときに「今表している指の形がいくつなのか」はわかるようにしておく必要があります。「①指で表した数がわかる」の範囲になりますが、単体で数を表した時と順番に数える時では指の形が異なるケースは少なくありません。0~10まで数えていく中でのそれぞれの形、そして10~0まで数えていく過程のそれぞれ形について、「これはいくつ?」と聞いて答えられるかどうか確かめてみることをお勧めします。
また、0~10まで数える動作が問題なくできるようであれば、「8の次の数は?」「8の前の数は?」というような「次の数」「(ひとつ)前の数」を答える問題に挑戦しておくと、この先の学習で何かと役に立ちます。機会があれば、出題してみてください。
ところで、子どもによっては「数を理解する」云々という問題とは別に「指を曲げたり伸ばしたりする動作」の方に困難を感じる子もいます。
その場合は、この先の計算で利用することはあまり考えず、まずはここまでの①~④のみに集中して、指先の運動に慣れることに専念した方が良いでしょう。以前の記事でも書きましたが、指は便利なツールではあるものの代わりに道具を使う方法もないわけではありません。指の曲げ伸ばしに気を使いながら数についても習得しようとすると、集中するべきことが分からなくなり、混乱するだけになってしまうかもしれません。数概念の習得は数概念の習得、指を動かす練習は指を動かす練習で分けて考えていきましょう。
⑤指定された数を増やしたり減らしたりできる
繰り上がり・繰り下がりの無い計算にあたる操作です。
ここでは、これまでの動作には全く無かった難しさが発生してきます。それは、足し算にしろ引き算にしろ常に3つ以上の数を区別しなくてはならないという点です。
例えば「4+2」の足し算をする時、最初の4、加える2の他に、答えの6という数字も考えられますね。
自分が今指で表してる形は3つの数のうちどれなのかということを、意識しながら計算しなくてはいけません。
その中では「繰り上がりのない足し算」はそれほど難しくはないので、まずはそこから考えてみましょう。
まず最初に一番左の数(「4+2」の計算なら「4」)を指で表します。
そして、そこから左側の数(「4+2」の計算なら「2」)の分だけ指を伸ばしていきます。
「1」でこの形に↓
そして、「2」でこのような形になり↓
この時に指が表している数が答えということになりますね。
この時、実際に数えるのは加える数の「2」だけになるようにしておくのが、混乱なく計算するポイントです。そのために前編の①と②の段階で「指の形から直感的に数を判断できる」ようにしておくことが重要だと言えるでしょう。
足し算の段階で、最初の「4」の形をぱっと作ることができず、「1,2,3,4」と指の数を数えながら形を作っているようだと「今どの数を何のために数えているのか」を見失って混乱しやすいのです。同様に、2を足した後の指の形を「6」と判断できずに指の本数を数え始めてしまうのも混乱の元です。
もしもこの段階で「増やしていく指の数」以外の数も数えているようでしたら、目の前の計算についてはおはじきやブロック等を利用し、指の練習については前の①~③の段階に戻って再度練習することをお勧めします。
引き算については、足し算と逆の操作をすることになりますね。
例えば「6-2」の計算であれば、まず
「6」の形を作り、
引く数(「6-2」の計算なら「2」)を数えながら指を一本ずつ曲げていきます。
「6-2」なら「いち」でこの形に↓
「に」でこの形になり↓
この時点で指が表している「4」が答えです。
⑥変化する量を指で表せる
⑥の操作は、主に繰り上がり・繰り下がりで活用される方法です。
例えば「8+3」の計算で考えてみましょう。
「+」の前にある数「8」は口頭で言うのみで、手は「+」の後ろにある数「3」の形にします。
指の形は、特に「これでないといけない」というものはなく、使いやすいものでかまいません。
指で「3」を表していますが、ここで唱える数は「8」の方です。
そして、この指の数を一ずつ減らしながら、唱える数も「8」から一つずつ変えていきます。引き算の場合は唱える数も減らしていきますが、これは足し算ですから増える方ですね。
「8」とこの形でスタートし↓
「9」でこの形↓
「10」↓
「11」↓
これ以上指の数を減らすことができないので、ここで終了して「答えは11」ということになります。
繰り上がりの足し算では答えが10よりも大きくなってしまいますから、⑤の時のように「最後に指が表している数が答え」とはなりません。同様に、繰り下がりの引き算では最初の数を10本の指で表すことができませんから、元の数と答えの数は唱えるのみで、指は足す数(+の後ろの数)または引く数(-の後ろの数)を数えるのに使うしかないのです。
ところで、この方法は繰り上がりや繰り下がりのない計算をすることも可能です。「混乱を避ける」という意味では、⑤のステップを飛ばして⑥を覚えてしまった方が、「ミスなく答えを出す」という点では適切なのかもしれません。
ただ、数の大きさなどのイメージを定着させるためには、⑤の方法の方が優れていると思われます。⑥のやり方のみを覚えると「ミスなく答えが出る」としても、「ただ機械的な方法をこなして、出てきた答えを書いているだけ」という感覚になってしまい、数のイメージが定着しづらい可能性も考えられるのです。
そのため、繰り上がりや繰り下がりの計算がないうちは、⑤の手順で計算する経験をしておくことをお勧めしたいと、私は考えています。
また、+や-の後ろの数を指で数えるパターンとしては、手を「パー」の状態から始める方法を見ることの方が多いかもしれません。
先ほどの「8+3」の計算でいえば
↓この形で「8」と唱えてスタートし
↓「9」
↓「10」
↓「11」
と数えていき、ここで3足し終わったので「答えは11」という考え方です。
こちらの方が一般的かもしれませんが、繰り上がり・繰り下がりの計算で苦戦している子どもの場合はあまりお勧めできません。
一番の理由は、先ほど少しお話したように、足し算・引き算には必ず3種類以上の数が出てくるからです。
指を折りながら足していく(又は引いていく)という方法で計算していると、最後にできた指の形が、何を表しているのかわかりづらくなってしまいます。先ほどの例では最後は「3」の形になっていましたが、これを答えだと勘違いして「3」とか「7」とか答えてしまうケースも少なくありません。
また、指を折りながら足していくと、ゴールがどこだか分からなくなってしまうことがあるのです。唱えているのはあくまでも「答えになる」数なので、指の動きに応じて「1,2,3」と数えていません。前編の①や②に関連する部分でもありますが、やはり数の概念の理解が不十分なうちは指の形だけで「3足し終わった」と判断するのが難しく、そのままいつまでも足し続けてしまったりします。
それに対して最初に「3」を指で作って、「0(グーの形)になったら終了」というルールにしておくと、そのようなミスを防ぐことができるのです。
指の使い方は個々によって違うので「これが正解」というものはありません。ですからもちろん、既に「自分の指の使い方」が確立していてミスが見られないようでしたら、無理やり上記の方法にこだわる必要はないでしょう。ただ、まだ指の使い方が定まらず迷走しているようでしたら、試してみてください。
◎まとめると
・指を使った足し算や引き算の一番難しいところは、計算に必ず3種類以上の数が出てくるのにも関わらず、指で一度に表せる数は1種類だけだという点です。
・本人のやりやすい方法が確立しているのなら無理に変えさせる必要はありませんが、もしも「指を使っても上手く答えが出せない」状態の場合は、指の使い方をしっかり決めて手順通りに進めることを考えた方が良いでしょう。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。