「だらしなさ」と向き合う~3行で振り返る読書(6)~
こんにちは、
キッズの教養を考える研究室「ききょうけん」のベル子です。
今回の「3行で振り返る読書」では、2冊のコミックエッセイをまとめて振り返ります。
池田暁子(いけだきょうこ)さんというイラストレーターの
「片づけられない女のための こんどこそ! 片づける技術」
「貯められない女のための こんどこそ! 貯める技術」
という2冊です。
いずれも文芸春秋からの出版です。
とりあえず、さっそく3行で振り返ってみます。
(シリーズ全体を通して、あくまでも私の個人的な感想や解釈に基づくものなので、筆者の意図から外れていることもあるかもしれません。その点はご理解くださいますようお願いします。)
◎3行で振り返る
あらすじは→モノやお金の管理が苦手な筆者が試行錯誤を重ね「自分自身を躾ける」話
考えたこと→「できない自分」と向き合い「管理する自分」を育てることで改善できる
感想は→程度の差こそあれ「思い当たる人」「参考になる人」は多いのでは
◎ざっくり作品紹介
イラストレーターの池田さんが、自信の体験をもとに書いたコミックエッセイだそうです。「片づけ」の方の初版が2007年4月、「貯める」の方の初版が同年12月に出ています。
巻末の著者紹介文には「神戸大学教育学部卒業、筑波大学芸術専門学群中退」とあります。おそらく、いわゆる「学校の勉強」に関しては、どちらかというと得意なタイプなのではないでしょうか。実際問題と向き合う際に、頭を使って理論的に考えようとする姿勢がところどころで見られます。
でも片づけやお金の管理が苦手で、いわゆる「汚部屋」に住み、自分の銀行口座や財布の中のお金がほとんど残ってないことにギリギリまで気づかず大変な思いをして「このままではいけない」と生活の立て直しを図ります。
あれこれと思いつくアイディアを実行しては失敗し、試行錯誤を繰り返して、最終的には「普通の部屋(著者談)での生活」と「貯金50万円」を達成するところまでが漫画の内容です。
ちなみに、この後「体重の管理」や「時間の管理」等についても挑戦していて、それぞれ本を出しています。一部は別の出版社の本です。
◎この本との出会い
私がこの2冊の本を手に取って読んだのは、確か2010年くらいだったかと思います。当時の私の職場には「時間や物、お金の管理が極端に苦手」な上司と同僚がいて、私がそのサポートを上手くできるかどうかというのが仕事を円滑に進めるうえで非常に重要な時期でした。
あれこれ工夫してサポートをする中で、一般的には「だらしない」と言われてしまうタイプの人たちに、「しっかりしましょう」と言っても何の改善にもつながらないことを改めて感じました。でも現実にそういう人たちが頻繁に言われる言葉が「しっかりして」や「いいかげんにして」であるのも事実です。
自分は教育関係の仕事をしているためかどんなことでも「できないことをできるようにするには、技術や理論を覚えないと難しい」という実感があるのですが、日常生活の諸々を当たり前のようにできる大人にしてみると「やる気の問題」という感覚の方が強いのでしょう。
でも実際には「やる気がある」けれど「上手くできない」人はいます。では、そういった人には何が足りないのか、という部分を考えるうえで、非常に参考になりました。
物やお金の管理という点では、私はどちらかというと「しっかりしている」と言われるタイプです。でも、実際の性格としては、あまり得意な方ではないという自覚がありました。それでも何とかやってこられたのはなぜなのか、その理由も、この本を読んで改めてわかった気がします。
そういった発見は、当時の仕事はもちろん、その後の子どもたちへのアドバイスなどにも生かせています。
◎「だらしなさ」の正体が明らかに
本の最初の方では、筆者の片づけや貯金に関わる日常生活が描かれ「いかにできないか」が表現されているのですが、多くの人がどこかで心当たりのある描写ではないかと思います。「上手くいかない『あるある』」のようです。
仮にそういったことに縁のないしっかり者の人でも、「そういえばあの人(あの子)って、そういうところがあるな」と身近な人と重ね合わせられることでしょう。
整理しようと思って収納グッズを買う→収納グッズの分だけ物が増える→グッズを使うための手間も増える→管理が難しくなる
とか、
当面使う予定の無いものをもらった→とりあえずしまい込む→必要になった時には存在を忘れている→新しく買ってしまって無駄遣い
とか、
書類の整理を思い立つ→途中で分類に迷う→その場になんとなく置いてしまう→結局何も整理できていない
とか。
なぜ「だらしない」行動になってしまうのか、なぜ上手くいかないのか、失敗する過程が非常に丁寧に書かれています。
ここは一つ一つのエピソードに魅力があるためレビューのような記事では詳しく伝えられないのが残念です。興味のある方は是非読んでみてください。
◎改善するためのポイント
この本の中で、著者は何度も何度も「(片づけや貯金について)今度こそ上手くやろうと思っているのに、どうして上手くいかないの?」と自問しています。
最初のうちは「頑張りが足りないから」「上手くやるための技術が足りないから」と考えていたようです。でも、「こんどこそ」と挑んでは失敗する中で、途中から少しずつ意識が変わっていきました。
自分には、こんなたくさんの物を管理できない→だから物を減らさなくては
自分は手元にお金があったら使ってしまう人間だ→だから簡単には手の届かないような場所に置かなくては
というような思考になっていくのです。
「自分は、こういったことが苦手な人間なんだ」と受け入れた上で、「苦手な自分が失敗しないようにするにはどうしたら良いか」という視点で考える方向に変わっていきます。
「物やお金を管理する」のではなく、「そういったことが苦手な自分自身を管理する」思考にシフトしたわけです。 この本の途中で「じぶんしつけ中」という言葉が出てきますが、その言葉がとても強く印象に残っています。「うまくいかない自分」は「できない自分」のままで、その自分が上手く生活できるように導く「もう一人の自分」を設定するのですね。
確かに私自身や周囲の人間の「片づけが上手くいかない時」などを振り返ってみると、「本腰入れればできるはず」「コツさえつかめばできるはず」「何か画期的な道具があればできるはず」と考えているケースが多いような気がします。でも、上手くいっていないからには「やる気が出せない」「コツがつかめない」「都合の良い道具はない」という現実があるはずで、そこから目をそらしていても解決にはつながらないのでしょう。
物やお金の管理に関して、確かに「意識」や「技術」は重要です。でも、それを上手く結果につなげることができるタイプの人と、難しいタイプの人がいます。
私もどちらかというと後者のタイプです。そして振り返ってみると「自分は面倒くさがりだから」と、最初から手間を省けるようにしていることがたくさんあります。時には周囲に「しっかりした人」と言われるくらいのイメージを、ここまで何とか保ってやってこられたのは、そういった工夫があったからでしょう。
片づけにしろ貯金にしろ、どれだけ「本当はできるはず」と思っていても、現状で上手くいっていないなら「できない」人間なのだといえるのかもしれません。そのことを受け入れて、「できない」自分とどう向き合うかを考えた方が解決への近道のようです。
◎解決は1日にしてならず
「本気出せばできるはず」という考えと少し近いのですが「1回で解決しよう(できるはず)」という思考こそが、解決から遠のかせる原因になるのだなと、この本を読んでいてつくづく感じました。
筆者である池田さんは、何度も失敗している様子を赤裸々に書いています。一度の失敗であきらめず、失敗から学んだことを生かすことで、最終的に問題を解決しているのですが、「1回であきらめない」というのは実はかなり難しいことではないでしょうか。
「自分がいかにできないか」を知るためには、失敗をしてみるしかないのですよね。だから「試行錯誤」は大事です。でも「良い方法=一発で上手くいく方法」と考えてしまいがちで、「一発で上手くいかないだろう→この挑戦は意味がない→努力しない」という発想になってしまうこともあるでしょう。そのせいでいつまでも解決しないという問題というのも少なくありません。
子どもに何かを教える立場だとこれを厄介に感じる場面があります。「何度か失敗して初めて上手くできるようになるものだから、今回はきっと失敗するだろうけど、やってごらん」と正直に言うわけにはいかないこともあります。
「一回で上手くいかなくて当然」というスタンスで物事に挑戦できる精神は、何かを身につけるために特に重要な要素だと感じました。
◎最後に3行で振り返る
あらすじは→モノやお金の管理が苦手な筆者が試行錯誤を重ね「自分自身を躾ける」話
ポイントは→「できない自分」と向き合い「管理する自分」を育てることで改善できる
感想は→程度の差こそあれ「思い当たる人」「参考になる人」は多いのでは
今回は池田暁子さんのコミックエッセイ2冊をまとめて3行で振り返りました。
これまで振り返った本に比べると知名度が高くないかもしれませんが、長期間書店で平積みされるくらいには注目された本です。漫画で読みやすいので、興味を持った方は是非読んでみてください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
|
|