ききょうけん(キッズの教養を考える研究室)

「キ」ッズの「教」養を考える「研」究室

カイと読者の迷宮(後編)~3行で振り返る読書16~

 こんにちは、

キッズの教養を考える研究室「ききょうけん」のベル子です。

 

「今回の3行で振り返る読書」は、アンデルセン童話「雪の女王」を振り返る後編です。

 

 同じアンデルセン童話の「裸の王様」「マッチ売りの少女」などと比べて、名前の知名度の割にストーリーはあまり知られていない気がするこちらの童話。前編と中編ではそのストーリー紹介を中心に書いてきました。

 

※前編と中編はこちら↓

kikyouken.hatenablog.com

  

kikyouken.hatenablog.com

 

 

 前編でも話しましたが「それぞれの表現について、どう解釈するか」が人によって全く異なりそうな作品であるため、なるべく自分の主観を入れずにストーリーを書き出していこうとした結果、あらすじの紹介というよりは、文章を短く切り貼りしたような感じになってしまったかもしれません。それでも「どこを残してどこを削るか」という点において、やはり私の個人的な解釈が反映されているだろうなと思います。

 ですから、紹介したストーリーを読んで興味を持った方は、是非実際の作品を読んでみてください。

 

 今回は、本編中で作品の鍵となりそうな言葉を拾って紹介します。私の個人的な感想は次回「補足」の回で書かせていただくとして、今回はなるべく自分の主観の入らないように書き出してみましょう。

 

◎「悪魔の鏡」

 

 良いものや美しいものについては見えなくなるくらい小さく映し、役に立たないものや醜いものについては大きく更に酷く映すという鏡。カイは2つ目のお話で突然人が変わったようになってしまうのですが、心が直接「悪魔にとりつかれる」とか「闇に染まる」というようなことではなく、「ものの見え方が変わることで人格が変わってしまう」という設定になっています。ファンタジーなアイテムではありますが、現実にも生まれ育った環境や誤情報によって人間が良くない行動をとってしまうということは往々にしてあるので、完全な架空の道具ととらえるか現実を暗示したものととらえるかは解釈の楽しいところでしょう。

 ところで、一般的に日本の昔話で「悪い鬼」というと暴れて物を壊したり人を傷つけたりというように「人間に危害を加える存在」というイメージが強い気がするのですが、キリスト教の「悪魔」は何か悪さをするというよりも「人間を悪の道に誘い込む存在」というイメージが強いのではないでしょうか。アダムとイブの物語でも、2人直接何か危害を加えるのではなく、食べてはいけない木の実を食べるようにそそのかす存在です。この物語で登場する悪魔も人間の食べ物を奪ったり暴力をふるったりはしません。雪の女王の城の近くでゲルダに襲い掛かるように集まって来る雪は「雪の軍団」であって、悪魔という表現は使われていないので、明確に区別されていると言えるでしょう。悪魔は作中人間を攻撃することせず、ただ、結果的にカイを豹変させます。その豹変のさせ方が「直接誘惑する」ではなく「カイの視点からの物の見え方を変える」というのは、この物語の特徴的なところではないでしょうか。

 

 

◎「忘れる」

 

 カイもゲルダも作中でいろいろなことを忘れます。雪の女王について行ったカイはゲルダや故郷のことを忘れ、魔法使いのおばあさんの魔法によってゲルダは何故自分がそこにいるのかを忘れ、最終的には2人とも物語の一部始終を全て忘れてしまうのです。とにかく「いろいろなことを忘れる」物語です。この「忘れる」ということがらは、この物語の中で非常に重要な鍵になっていそうです。

 

 

◎「バラ」

 

 2人の家庭で育てている花です。カイが本来の心を失ってしまった時にむしり取ってしまう花でもあり、ゲルダがカイを思い出す鍵となる花でもあります。前編でも書きましたが、2人の心を象徴する花として登場しているのでしょう。また、作中でゲルダ達が何度となく歌う賛美歌の歌詞の中にも入っているので、この物語単体での位置づけだけではなく、アンデルセンが生まれ育った土地のもともとの文化的・思想的な背景の中に「バラをどう解釈するか」の前提があるのだと思います。私はそのあたりのことに詳しくありませんが、それを知っていれば物語をもっと深く理解できるのでしょうね。

 

 

◎「永遠」

 

 カイが雪の女王に課せられたパズルのお題です。

 悪魔の鏡が心にささったカイは、知識量などに関して言えば「賢くなった」ように描写されていますが、この「永遠」の綴りを組みたてることはできませんでした。そして、ゲルダの登場で綴りが完成します。

 カイが独りで「永遠」を綴れなかったのは何故なのか、ゲルダが来たことで何が変わったのか、そもそも雪の女王がこのパズルを課した意図は何だったのか。このあたりが物語の主題に関わる部分になりそうです。非常に重要なキーワードだと思われます。

 

 

雪の女王

 

 そもそも、この人(人ではないかもしれませんが)は何ものなのでしょうか。雪深い地方の、雪の城の主であることは間違いありませんが、それで絶対的な悪として存在するのかそうでないのか。悪魔はさすがに「人間にとって害となる、悪いもの」と言って間違いないと思いますが、雪の女王が「悪」だと断言する表現は見当たりません。カイとゲルダにとっての試練となる存在ですが、悪役と言い切って良いものかどうか。

 また、女王に関しては何度となく「美しい」という説明がされますが、基本的に悪魔の鏡を通したカイの視点なので、真の姿はどうなのでしょう。ゲルダ雪の女王の留守中にカイを連れ出すので、ゲルダ雪の女王が対峙するシーンが無いことにも意味があるのではないでしょうか。

 

 

◎最後に

 

 今回は雪の女王を読むうえで重要な鍵となりそうな事柄をリストアップしてみました。

 次回は補足として、私自身の個人的な感想を振り返らせていただきたいと思います。

 

 ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

 

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