ききょうけん(キッズの教養を考える研究室)

「キ」ッズの「教」養を考える「研」究室

カイと読者の迷宮(前編)~3行で振り返る読書14~

※ネタバレ注意

 

今回は、アンデルセン童話「雪の女王」の内容に関する記述が含まれます。

 

 こんにちは、

キッズの教養を考える研究室「ききょうけん」のベル子です。

 

「3行で振り返る読書」では今回から数回にわたり、アンデルセンの童話「雪の女王」を振り返ります。

 

 

 

 童話としては、どちらかというと長い部類に入るでしょうか。短く改変された絵本も多数出版されていますが、私はこちらの新潮文庫の「マッチ売りの少女 アンデルセン童話集3」に収録されているものを読みました。文庫本では、70ページ弱の分量です。

 

 前回・前々回は「ルールブック」、ぞの前は「子育てエッセイ」を振り返ったので、久しぶりの「物語」の振り返りになりますね。

 

※前回の記事はこちら↓

kikyouken.hatenablog.com

 

雪の女王」は、タイトルの知名度の割にストーリーがあまり知られていない童話ではないでしょうか。そのため、「いつかブログで紹介したい」と思っていたのですが、いざ紹介するとなると、かなり高い壁に直面することになってしまいました。その「壁」に関してはおいおい書いていくとして、

かなり拙い「振り返り」になるかもしれませんが、とにかくまずは3行で振り返るところから始めてみます。

 

◎3行で振り返る

 

あらすじは→悪魔の鏡によって豹変し姿を消した少年カイを少女ゲルダが探し出す話

特徴は→幻想的な情景描写の中に、人間の心理や世界の真理の暗示を感じる世界観

感想は→声を大にして語るより、自分のペースでじっくり繰り返し読みたくなる

 

 

◎語られない理由

  

 題材に選んでおいてなんですが、この「雪の女王」という作品、「こういう物語ですよ」とまとめるのが非常に難しい作品だと感じました。100人が読めば100人解釈が異なるだろうと思われる内容なのです。

 どのような本でも感じ方は人それぞれなのですが、それでもある程度「命の重さをテーマにしているのでは」とか「人間社会を風刺しているのでは」とか、何らかの「主だった見解」が出てくるものではないでしょうか。ところが、この作品では「作者はこういうことが言いたかったのでは」と総括することがとても難しいと感じました。

 

 読み取るというよりも、感じ取る作品のようです。そしてその感じ取ったことについても、「それは私がそう感じたというだけで、作者としてはどうだろう」と常に考えさせられました。ですから「身近な人と個人的に感想や解釈を語り合う」のはとても楽しそうなのですが、このブログのように不特定の人がご覧になる場所で「この物語はこういう作品です」と書き出すとなると何をかくべきか考えてしまいます。

 

 その難しさを感じたのは、おそらく私だけではないのでしょう。タイトルはかなり有名なのに「マッチ売りの少女」や「裸の王様」に比べて内容が知られていないのは、そのせいなのではないでしょうか。読んでみた人はそれなりにいても、その後不特定多数の人に向けて「こういう話ですよ」と紹介する人が少ない、語りづらい作品です。

 

 

◎背景の壁

 

 もう一つ「私がそう感じたというだけで、作者としてはどうだろう」と、読書中常に疑問に感じた理由があります。作品の要所要所に「日本人の自分とは異なる感覚」を感じたからです。

 まず、タイトルにも使われていて、作中重要な要素となるであろう「雪」に対する感覚です。

 日本人でも雪深い地域にお住まいの方ならばまた違うのかもしれませんが、雪のあまり降らない地域に住んでいる日本人は、雪を何かとロマンチックなものとして扱います。でも、この作品の中での「雪」はそうではなさそうです。もちろん、美しく幻想的な(そして時に儚い)ものとしての描写もあるのですが、もっと別のとらえかたをしているのだろうなと感じる箇所があります。日本は四季の変化が豊かだと言われていますが、北欧での雪に閉ざされた冬と白夜の続く夏との変わりぶりは日本とは比べ物にならないようです。もっとも、アンデルセンの生まれたデンマークのフュン島は、北欧とはいえそれほど雪の降る地域ではないようなのですが。

 

 また、宗教的・思想的な背景も日本人とは異なるだろうと感じます。作中のところどころで天使や悪魔、賛美歌やお祈りが出てくるのですが、これが表現状非常に重要な役割を果たしているようなのです。巻末の解説によると、アンデルセンの母親は深い信仰心を持っていたと書かれています。この物語は、その環境で育ったからこその作品なのだと思われますが、だからこそ宗教的背景にピンとこないと解釈が難しいのではないでしょうか。

 もう少し細かい部分では、「バラの花」の扱いにも文化の違いを感じます。作中、人間の心を象徴するもののように登場しますが、これも、もともとヨーロッパではバラというものが特別な花として他作品でも扱われているのではないかと感じました。日本でもバラは記号的に使われることがありますが、どちらかというと美の象徴として使われることが多く「心」となると桜などが多いような気がします。

 

  もちろん、どんな文学作品でも「作者と読者のバックボーンの違い」というのは存在します。そして読書というのは、そのバックボーンの違いを楽しむものでもあるでしょう。実際にこの作品を読んでいてその楽しさはありました。

 ただ「作者が意図したように読み取ろう」と考えると、この作品のように「読み取るよりむしろ感じ取る」文章の場合、バックボーンを深く理解しないと特に困難なのではないでしょうか。

 

 

◎ストーリーを詳しく紹介 

 

 そのようなわけで、正直なところ今までで一番「記事を読むより、実際の本を読んでしまった方がはやい」と感じさせる本ではあります。

 でも、私自身もそうでしたが、読もうと思ってからいざ読むまでに時間がかかったりしやすい作品のようなので、今回このシリーズで数回に分けて振り返ってみるつもりです。

 

 今回の前編と次週の中編では、そのストーリーを少し詳しく紹介します。

 

  解釈をするとなると難解に感じる作品ですが、おおまかなストーリー展開自体はそこまで複雑ではありません。

 

 

 このお話は、冒頭に「七つのお話からできている物語」と書かれていますが、「七つのお話」というよりは「七回に分かれたお話」という印象です。一つ一つのお話は「独立した童話」ということではなく、途中から一話だけ読んでもストーリーについていくのは難しいのではないかと思います。連載小説の「一話、二話」くらいの意味での「七つのお話」ではないでしょうか。

 

 以下、話ごとにタイトルとストーリーを書き出してみましょう。

 

 

①さいしょのお話「鏡と、鏡のかけらのこと」

 

 妖魔学校の校長をしている悪魔が、ふしぎな鏡を作りました。その鏡は、良いものや美しいものについては、見えなくなるくらい小さく映し、役に立たないものや醜いものについては、はっきり大きく更に酷く映すというものでした。悪魔たちは喜んでこの鏡を持ち歩きますが、ある時地上に落としてしまいます。悪魔の鏡は砕け散り、人々の世界にまき散らされてしまいました。そしてそのかけらの幾つかは、人の心の中にも入り込んでしまいます。どんなに小さなかけらでも鏡全体と同じ力を持っていますから、その人の心は、氷のようになってしまいました。

 

 

②二番めのお話「男の子と女の子」

 

 大きな町にはたくさんの家がひしめき合い、大勢の人が暮らしています。そんな町に、男の子のカイと女の子のゲルダという二人の貧しい子どもがいました。二人の両親はお隣同士で、屋根裏部屋に住んでいます。それぞれの家の窓の外には木の箱があり、そこは食べるための野菜と、一株の薔薇を植えています。二人は時々屋根の上へ出て、その薔薇の下で楽しく遊びました。

 雪の降る冬になるとその楽しみはなくなってしまいますが、たくさんの階段を降りてお互いの家を行き来し、家の中で和やかな時間を過ごすことができます。ある日おばあさんから「雪の女王」の話を聞いたカイは、窓の外、木の箱の淵にその姿をを見つけて震え上がります。

 春が過ぎ、夏になると、薔薇が美しく咲きました。ゲルダは歌詞に薔薇が出てくる讃美歌を覚え、カイと歌う素晴らしい日々を過ごします。そんなある日、カイの目の中に悪魔の鏡のかけらが入り込んでしまったのです。その日からカイは変わってしまいました。

 カイは頭を働かせるような遊びを好むようになりました。ゲルダの絵本を「赤ん坊の見るものだ」と馬鹿にし、おばあさんの話に「だって、だって」と口をはさみます。さらに大人の「癖」など良くないところを真似したり、ゲルダをからかったり、薔薇の花をむしったりするのです。

 雪の降るある冬の日、カイは雪の結晶をゲルダに見せて言います。「本当の花なんかよりずっとおもしろい」「とけなきゃいいんだけど」と。その後そりを担いで、一人で広場に行ってしまいました。広場では子ども達が、農夫の車に自分のそりをくくりつけて遊んでいます。カイはそこで大きくて真っ白なそりを見つけ、自分のそりを結びつけます。そりは町の門を通り抜け、雪が激しくなるなかをどんどん進んでいきます。カイは大きなそりから離れようとしましたが、不思議と離れることができません。

 大きなそりに乗っていたのは、美しい雪の女王でした。女王はカイを自分のそりに乗せ、キスをしました。最初は震えていたカイでしたが、すぐに寒さも恐怖も感じなくなります。ゲルダのことも家のこともすっかり忘れて、女王に暗算のことや国の面積のことなどを話すのでした。そりは嵐の中、空高く黒い雲の上までとんでいきます。

 

 

 

◎中編に続きます

 

 中編では、ゲルダが旅立つ「3番めのお話」から最後の「7番めのお話」までのストーリーを紹介します。

 ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

 

※次回の「3行で振り返る読書」は1月17日(金)に更新予定です。

 

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