ききょうけん(キッズの教養を考える研究室)

「キ」ッズの「教」養を考える「研」究室

カイと読者の迷宮(補足)~3行で振り返る読書17~

※ネタバレ注意

 

今回は、アンデルセン童話「雪の女王」の内容に関する記述が含まれます。

 

 

 こんにちは、

キッズの教養を考える研究室「ききょうけん」のベル子です。

 

 今回の「3行で振り返る読書」は、アンデルセン童話「雪の女王」を振り返る最終回です。

 

 ある意味では補足ですし、ある意味では本編ともいえます。

 あくまでも個人的に感じたことですが、この作品は人によって感じ方が大きく異なると思われ、個人的な感想を本の紹介として書くことに少し躊躇してしまいました。そこで、これまでの前編~後編までは極力私個人の主観を反映させ過ぎないように気を付けながら、あらすじやキーワード等を紹介してきたわけです。

 

※前編~後編はこちら

kikyouken.hatenablog.com

 

kikyouken.hatenablog.com

  

kikyouken.hatenablog.com

 

 

 今回は私の主観で振り返っていきたいと思います。

 

 

◎まずは3行で振り返る

 

あらすじは→悪魔の鏡によって豹変し姿を消した少年カイを少女ゲルダが探し出す話

特徴は→幻想的な情景描写の中に、人間の心理や世界の真理の暗示を感じる世界観

感想は→声を大にして語るより、自分のペースでじっくり繰り返し読みたくなる

 

 

◎この本との出会い

 

 タイトル自体は何となく知っていましたが、子どもの頃の私はこの「雪の女王」のストーリーはほとんど知りませんでした。

 大まかなあらすじを知ったのは、一枚のCDを購入したことがきっかけです。

 

 私は谷山浩子さんというシンガーソングライターの曲が好きで、一時期は結構熱心にアルバムCDを集めていました。その当時発売されたCDの中に「カイの迷宮」という作品があったのです。

  

 

※上のリンクは復刻版ですが、中の曲は当時私が購入したものと変わらないと思います。

 

アンデルセン雪の女王』をモチーフに書き下ろした楽曲を収録」と紹介されていたこのCDの世界観を、私はとても気に入りました。また、このCDには音楽以外のデータも入っていて、パソコンを利用すると雪の女王の非常に大まかなストーリーを辿った紙芝居といいますかスライドショーのようなものも見ることができたのです(現在の復刻版で見られるかどうかは確認していません)。初めて知る雪の女王のストーリーに興味をもったものの、大まかなストーリーだけだとやはり謎の多い部分も多く、いつか「雪の女王」自体も読んでみたいと考えるようになりました。絵本用に短くまとめたストーリーではなく、アンデルセンの書いた文をただ訳しただけのものを。

 でも、書店で「雪の女王」を探すと、絵本用に短く書き直されたものが多いのですね。それでなかなか元の文章そのままらしい本を見つけることができませんでした。何年も読めないままになっていましたが「雪の女王」というタイトルの本は少ないものの「童話集」の中の一編として収録されていることに気づき、ようやく読むことができました。

 

 実際購入した書籍のタイトルは「雪の女王」ではなく「マッチ売りの少女」です。 

 

 

バベルの塔

 

 ストーリーは前編や中編で紹介した通りですが、実際の文章を読んでみて序盤の方に感じたのは「バベルの塔のエピソードに似ている部分がある」ということでした。

 バベルの塔といえば旧約聖書に登場する話で、「天にまで届く塔を作ろうとした人間の行いに神が怒り、二度とそのような計画を立てられないように、人間たちをお互いの言葉が通じないようにして散り散りにさせた」というようなエピソードの塔です。

 

 雪の女王の1つ目のエピソードで、「物事が悪い様に見える」鏡を面白がった悪魔は、それを使って天使や神をからかおうと天へ昇っていきます。そしてその途中でうっかり鏡を落として割ってしまうのです。そしてそのかけらが刺さった人は、刺さっていない人と同じものを見ても同じように見られなくなってしまいました。

 カイたちに災難が降りかかったのは人間の傲慢さでも神の怒りでもなく「悪魔のうっかり」なのですが、「神を軽んじて天まで昇ろうとした結果、途中で砕け散る」というところに、ちょっと「似ているな」と感じました。

 

 私はあまり聖書に詳しいわけでなないので解説めいたことを書くことはできませんが、新約聖書にはバベルの塔とは逆に「いろいろな民族の人たちの間で、突然言葉が通じるようになる」というようなエピソードがあったと思います。そしてそれは「永遠の命」と関連の深い場面です。雪の女王の7つ目の話ではカイとゲルダが「永遠」の言葉を完成させるシーンがありますから、それも含めてちょっと「バベルの塔」らしいなと。

 

 

 ◎人間と自然の本分

 

  幻想的な描写の多い作品ですが、個人的に特に印象に残っているのが、カラスと花のエピソードです。

 3つ目の話で記憶を取り戻したゲルダは、周囲の花たちにカイのことを聞いて回ります。花たちはそれぞれ答えてくれるのですが、ことごとくカイとは全く関係のない話をするのです。カイのことを聞いているのに全く関係ない話を延々と聞かされるゲルダの気持ちなどお構いなしに自分がしたい話をする様子を読んでいると、花たちは自分勝手に思えます。

 でも、その後のヒヤシンスのセリフで考えを改めました。ヒヤシンスは言います。「あたしたちは(中略)あたしたちの歌をうたっているだけですわ。あたしたちの知っている、たった一つの歌をね。」と。

 考えてみれば、カイという一人の少年がどうとか、自然界の植物にとっては特別な話ではありません。植物はただ、その場所でその植物として生きているだけなのです。自分たちの都合よく答えてくれるべきと考えてしまう人間の方が、身勝手なのかもしれません。それが人間の希望に沿っていようがいまいが、それが彼らの本分なのでしょう。

 

 本分という意味で、読みながらどう解釈するべきか迷ったのが、カラスたちです。

 最初にゲルダを助けてくれたカラスは外の世界を自由に飛び回る鳥ですが、彼のいいなずけは人間に飼われています。そして、このつがいのカラスは2羽揃って人間からご褒美をもらう際に「自由か、地位と安定か」の選択肢を与えられ「地位と安定」の方を選びます。童話といえば、一般的に「鳥は自由に飛べた方が良い」というような論調の方が強そうな印象があるので、この選択はちょっと意外でした。そして、この選択が正しかったとも間違っていたともいえない展開になったのにも驚きました。結末としては、もともと自由に飛び回っていたカラスはお屋敷での生活になじめずに短命だったのに対し、褒美をもらう前から人間に飼われていたいいなずけの方は彼の死をなげきつつ長生きしているようです。同じカラスの中でも、どう生きるべきかは異なるということなのでしょうか。

 

 

◎忘れても、なくならない

 

 後編でも書きましたが、とにかく作中ではカイもゲルダもよく何かを「忘れ」ます。最終的には、この「雪の女王」の最初のお話から7つ目のお話までの一連のエピソードを全て忘れて、いつの間にか大人になっているのです。でもその2人について「大人であって、しかも子供のふたり」と語られています。これは、全てを忘れ去ってしまっても、その経験は心のずっと奥深くに残っているということではないでしょうか。

 それまでの「忘れる」エピソードでも、表に出ないだけで心の底にはしっかり残っているように感じられます。

 実際のところ、私たちも子どもの頃の多くのことを忘れているでしょう。記憶として残っているのは、ほんの一握りです。でも、私たちの人格を形成しているのは一握りの記憶だけではなく、全く思い出せない過去のエピソードからも大きな影響を受けているはずです。私たちの現在の人格の大部分は、その「なくしてしまった記憶」からできているのではないでしょうか。そんなことを改めて感じるストーリーでした。

 

 

◎周囲の人と語り合ってみたいこと

 

 以上、私が個人的な解釈として、特に強く感じた内容を書かせていただきました。他にも個人的に色々と感じたことはあるのですが、書き出すときりがないのでこのくらいにしておきます。

 でも、周囲に「雪の女王を読んだよ」という人がいたら、ゆっくり語り合ってみたいなというのは、強く思います。一方的に文字で発信するより、2~3人で顔を合わせて語ってみたい本なのです。

 特に他の方に意見を聞いてみたいのは「ゲルダ雪の女王と対峙しなかった(という展開に作者がした)のは何故か」ということです。私はてっきり7つ目のお話でゲルダ雪の女王と会い、何らかの対決めいたできごとがあるのだと思っていたのですが、なんと女王の留守中にカイを連れ出してしまいます。しかも「出会うと大変だから、こっそり忍び込んで助け出そう」という作戦ではなく、ゲルダが到着した時にたまたま留守だったという展開です。

 これは作者が意図的にゲルダと女王の対峙を避けたのだと思うのですが、それは何を意味しているのでしょうか。私が他の人に特に意見を聞いてみたいのは、その点です。

 

 

◎最後にもう一度振り返る

 

あらすじは→悪魔の鏡によって豹変し姿を消した少年カイを少女ゲルダが探し出す話

特徴は→幻想的な情景描写の中に、人間の心理や世界の真理の暗示を感じる世界観

感想は→声を大にして語るより、自分のペースでじっくり繰り返し読みたくなる

 

 

 今回は「雪の女王」の個人的な感想等を振り返りました。とにかく人によって感じ方がことなりますし、いろいろな方の解釈を聞いてみたい作品なので、皆様是非手に取ってみてください。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

※「3行で振り返る読書」は今回で一区切りとします。来月以降は毎週月曜更新ではなく不定期に更新していく予定です。これからもよろしくお願いいたします。

 

 

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