おすすめの短編シリーズ(低学年編)~書いてみよう読書感想文⑨~
こんにちは、
キッズの教養を考える研究室「ききょうけん」研究員のベル子です。
「書いてみよう読書感想文」シリーズの9回目となる今回からは、数回にわけて短編物語のシリーズものを紹介していきたいと思います。
前回は、感想文の題材として「物語」を選ぶ際の難しさやその対策について考えました。
※前回の記事はこちら↓
本の中には感想文の書きやすいものと書きづらいものがあります。そして、どんな本の感想が書きやすいかということに関しては、当然個人差があります。
ですから感想文の題材を選ぶ際には、最初から1つに絞り込まずに「いくつかの本を内容を見てから書きやすそうな本を選ぶ」方が良いのです。
でも、絵や図解の多い図鑑のような本に比べると、物語には「最後まで読んでみないと、感想を書けるかどうかの判断がしづらい」という難点があります。普段読書をしない子の場合、何冊もの本を読んでその中から感想文を書けそうなものを選ぶというわけにはいかないでしょう。
前回、その対策方法をいくつか紹介しましたが、その中の1つが「短編集を読む」というものでした。
そこで今回は、比較的感想文が書きやすいと思われる短編集をいくつか紹介することにしました。
特定の本というよりも、短編シリーズの紹介です。
今回紹介するのは、寺村輝夫さんの「王さまシリーズ」です。
◎歴史のあるシリーズ
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1959年にスタートした歴史のあるシリーズなので、たくさんの本が出ています。既に成人した人の中にも「子どものころに読んだことがある」「教科書に載っていたのを見た」という人がたくさんいるでしょう。
シリーズ名は「ぼくは王さまシリーズ」となっていることもあるようです。どちらも「王様」ではなく「王さま」となっているところから、想定されている読者の年齢層がうかがえますね。
でも、世界観の好みが合うなら中学年や高学年の子でも、そして大人でも楽しく読める作品です。
本の形式も様々で、分厚い本に小さめの文字でたくさんのお話が収録されている「全集」から、1つの短編を絵本化したものまで。
子どもの好みで本のタイプも選べますね。
このシリーズ関連の本は、今は書店に並んでいないものも少なくありません。図書館で探すほうがお勧めです。
◎非現実的な世界観
内容ですが、かなりファンタジーといいますか「おとぎ話」感の強い世界観になっています。
そもそも童話の中の王様は、現実の王様像とかなりかけはなれていることが多いですよね。本来の業務が見えてこないような描写がほとんどです。ゲームなどでは一日中玉座に座りっぱなしで謁見だけが仕事のような存在になっていることもあります。本来の王様はもっといろいろなお仕事をしているはずなのですが。
このように、童話やおとぎ話の世界での王様はファンタジーな存在だといえるでしょう。でも、このシリーズの「王さま」のファンタジー性は、そんな程度のものではありません。「王さま」と呼ばれているというだけで、現実の王様とはまったく別ものです。
でもそんな現実離れした世界観とは裏腹に、王さまには「等身大の子ども」の姿が反映されています。この王さまシリーズは、1959年に始まった当初から「どこのおうちにもこんな王さまがひとりいるんですって」という言葉がキャッチコピーのように使われてきたようです。
主人公の王さまには立派な髭もありますし別の国の王女と結婚を考えるなどのエピソードもあるので、設定上は「良い歳した大人」だと思われますが、日常生活は子どもの様です。そして国民の存在はあまり大きく扱われず、お城での限られた人間関係の描写が主軸になっています。
日々の悩みも「今日の勉強をさぼりたい。でもさぼると大臣に叱られるから、それも嫌だ」とか「この前食べた料理がおいしかったから、どうにかしてもっとたくさん食べられないか」といったことがほとんど。
何かと大臣に怒られているようですが、自分の興味や趣味嗜好で、家来にあれこれと命令をくだすエピソードもたくさんあります。一応「王さま」ですから、家来たちは無理難題にも従うしかありません。
シャボン玉遊びに夢中になって「割れないシャボン玉が欲しい」と本気で言いだしたり、「普通の魚と足の生えている魚はどっちが速く泳げるか調べたいから、レース用のプールと足のある魚を用意しろ」と命令したり。
その都度命令された家来側の試行錯誤の様子も語られます。
いろいろと現実ではありえないことですが、一方で王さまの思い付きの内容は「皆も一度くらいは考えたことがあるかも」というものが多く、共感できる部分もあります。そして現実ではちょっとした思い付きで終わるはずのものなのに、主人公が「王さま」という立場であるために実現に向けて全力を注げてしまうわけです。
「自分は単なる思い付きとして一瞬で流してしまったあの話、本気で考えたらどうなるんだろう。」
荒唐無稽な世界観でありながら、何となく共感しながら読み進めてしまう作品です。
◎はっきりとした展開
時にはお城に魔法使いを自称する客が現れて無理難題を解決してくれたり、願い続けていたら夢の中で叶ったりと、展開としては「なんでもあり」な部分もありますが、話の骨組みはそんなに「なんでもあり」ではありません。
このシリーズの物語の多くには、はっきりとした「落ち」がつきます。
現実離れした世界がなんとなく語られて終わるということは、ほとんどありません。
イソップ童話のように「だから〇〇だね」というような教訓めいた内容ではありませんが、エピソードとしてしっかりと 区切りがついているのです。
そして、その「落ち」のための伏線が、物語のなかで何かしらはられているのです。前述の「魔法で悩みを解決」という展開も、「最後に唐突に現れた魔法使いが解決」というようなことはありません。そういった「なんでもあり」要素はどちらかというと「ドラえもんの秘密道具」と同じような扱いで「都合よく解決したあとの展開」の方が主になります。
このシリーズを何篇か読んで「最後にはしっかりとした落ちがつく」ということを覚えると、読みながらの予想がより一層楽しくなるでしょう。
◎こんな子にお勧め
上記のように現実離れしたエピソードが多いので、ファンタジーやおとぎ話の世界をイメージするのが好きでない子には厳しいかもしれません。
でも、普段からそうしたおとぎ話を好んで見たり読んだりする子なら楽しめるでしょう。
特に「テレビアニメや絵本・紙芝居などにあれこれコメントしながら喜んで見ているけれど、終わった後に感想を聞くと『面白かった』しか出てこない」というタイプの子にお勧めです。
以前「きょうから始める読書感想文」シリーズで「起承転結型感想文」について書きましたが、その書き方に向いています。
※「起承転結型」に関する記事はこちら↓
この記事で紹介しているのは、感想文を起承転結に分けるのではなく、物語を起承転結の4つに分けて、「起」の部分を読み終わったところで感想や今後の予想をメモし、メモが終わったら「承」の部分を読んで感想や今後の予想をメモし……という手法です。
1冊の短編集に収録されている複数のエピソードでこのメモを繰り返せば「このお話のメモでなら感想文が書けそう」と判断する材料にできるでしょう。
あらかじめ区切るポイントを大人が設定しておくとなると確実に大人のフォローが必要になりますが、この本に関しては「途中まで読んだら感想を書いてみる」というように、区切るポイントを子どもに任せても良いと思います。常に「正しく4つに区切る」ことにこだわる必要はありません。
◎まとめると
・「おとぎ話」などファンタジーな世界観に抵抗のない子どもであれば、「王さまシリーズ」がお勧めです。
・しっかり落ちがつくエピソードが多いので、展開を予想してメモを取りながら読み進める「起承転結型」感想文に向いています。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。